持続可能な未来とは何か
── SDGsの言葉の先にある「人間らしさ」
SDGs、持続可能性、ウェルビーイング。それらは果たして「新しい概念」なのだろうか。私たちはそれらを、どこまで自分の言葉として捉えているのだろうか。
音楽文化・AI・歴史から問い直す、100年後に残るものとは。
人間らしさや歴史に焦点を当てた対話の中から、新しい景色がゆっくりと立ち上がっていく。

持続可能な未来は「当たり前」なのか
ロゴや言葉が先行する時代に、その奥にある本質への問いとは、一体何なのだろうか。
山地: 最近、色々な企業が掲げている『持続可能な未来に向けて』とは結局一体なんだろうと、改めて私なりに考えておりまして。「SDGs」、「ウェルビーイング」とか、そういった言葉が新しい定義のように聞こえているけれど、それって「当たり前のことをもう一度見直していく」という意味なのかな、と思ったんです。松田さんは、持続可能な社会とは、結局のところどういったことだと解釈をされていますか。
松田:SDGsがごく当たり前というふうに考えているのは、日本人だけかもしれないと思う事がありましてね。とあるオーストラリアの方が、日本人の多くがSDGsのバッジをつけているのを見て、「みんな何故あれを付けているんだ」と言われていました。趣味じゃないですか、と。
山地:というのは、どういった意味でしょう。
松田:つまり、SDGsを本当に深く理解してやってる人って、結構少ないんじゃないかと思ってるんですよ。ロゴを身につけていると、いかにも理解しているように見えてしまうでしょう。SDGsの根底にある考え方は、どういうふうに人類が持続していけるか、生きていけるかという問いで、「すべての人はイコールだ」という考え方です。特に貧困層の中に身体の不自由な人がいると、生活しにくい状況が生まれる。そこをどうイコールにしていくか。
山地:それが全ての根底にあるベースの考えですね。
松田:その上で、環境問題とかいろいろな分野がSDGsの中にあるという訳ですが。その中の一つを極めることによって、他のことにも関連していろいろと持続化の世界観につながっているのかなと思うんですよね。「うちの会社はSDGsの目標として掲げられている17の項目のうちどこに何が当たるかな」ってすべての項目に当てはめるようなやり方も、否定はしませんが、本来は「我々はこれをやる」という軸がもっと絞られていてもいいのかなと思うんですよ。まず一つを極める。根底にあるのは、やっぱりこういう考え方だと思いますね。
山地:そのたった一つを深く極めることが、表層でなく言葉の奥にある本質を考えることに繋がりますね。

Beyond SDGsという問い
2030年という期限の先に、私たちは何を引き継ぎ、何を問い続けていくのだろうか。
松田:SDGsって達成しなきゃいけない年が決まっていましたよね。
山地:2030年でしたね。
松田:その後も持続するんでしょうか。
山地: ・・・確かに。持続可能な未来を目指すなら、本来ずっと終わらない前提であるはずですね。
松田:そうですよね。最近、「Beyond SDGs」と言われ始めてますが、じゃあそれはどう終わるのか、と思うんです。続けることが前提なのに、期限を切る考え方自体に、少し無理がある気がしてるんですよね。私が思うにその先に来るのは、かなり「精神的なもの」になると思います。
山地:物質でなく精神の部分、ですか。
松田:AIや生成AIが発達してきて、自分の知識の浅さに驚かされることが多くなりました。調べれば、AIの方がはるかに正確で、答えまで出てきます。そうするとまた次のそのステップに移っていくわけだけれど、もしAIが出した答えをAIが見て、AI同士でやりとりを始めたらどうなるでしょう。そこに人間はいなくなる。そうなった時に、人間って何なんだろう、という問いが残るわけです。
AIは人間じゃない。じゃあ人間は何か。その問いを考えないと、Beyond SDGsの答えも出てこない。結局、「人間らしさとは何か」ということになる。
山地:そうですね。深い問いかけです。変化し続ける未来を考える上で、今一度人間としての原点に戻り、必ず考えないといけないことですね。今は音楽やアートもAIで作成できてしまうような時代ですから、「人間らしさ」は最も重要なキーワードになってくると思います。

哲学から考える「人間らしさ」
情景を音楽にすること、文化に触れること。 感情や経験を通してしか届かないものが、確かに存在する。
松田:山地さんが取り組まれている、各地の情景を作曲し音楽にするという話。例えば神社で音楽を作るときに、じゃあ今見えているものをなぞるだけなのか、ということになってきますよね。地域の歴史であったりとか、人々がどういう想いでお詣りをしてきたか。何百年も前にできた神社であれば、その頃の人たちの文化性とか。私たちがそこから引き継いでいるものや、日本人として大切なものは何か。そういうことに思いが至ることが大切ですよね。
山地:目に見えない時代背景や、人々の想いを汲み取ることですね。
松田:そういった背景に想いを寄せられる人でなければ、多分SDGsをやってても無理なんじゃないかと思う。持続可能性って、「人間らしさ」の深いところまで行かないと、みんなが共通して動き出すにはちょっとまだ早いのかなって気がします。
山地:まさにその、日本にいると例えばSDGsの項目の中でも「飢餓をなくそう」って言われても、なんかすごく遠い国のことに感じてしまうこともありますよね。私は人間らしさって、「感情を持って想いを寄せる事」だと感じます。自分のことのように痛みを感じ、想いを寄せる。AIと人間の違いは感情。そんなふうに思うんです。
松田:2030年を超えた後も、世界で戦争が続いてるんだろうと思うんですよ。欲と欲が突っ張っているので、戦争を止めることは私たちにはなかなかできない訳だけれど。しかし一般の人達が「助けて」って言っている時に、いくばくかのことができるかどうか。個人として何ができるか。概念だけじゃなく、具体的に何をするか。個人として考えることが大事なんだと思います。
山地:その遠い国で起きている出来事を、ネット上で何か起こっているという、テキストと写真だけの世界の話じゃなくて、「そこに自分の感情を動かす」ことが人間らしい行動の一歩につながるんだと、今のお話を聞いて思いました。
松田:感情の持ち方っていうのは、また世界の人々によって違うじゃないですか。国や文化によって違いますよね。日本人について言えば、特定の宗教に偏らない人が多い訳です。
山地:クリスマスもお正月もありますし、神社もお寺も大好きですよね。
松田:僕はお茶の裏千家なんですけどね。その102歳の前家元の千玄室氏は、世界中での平和活動や国際貢献で活躍された方なんですが、たった一杯の茶碗から、ピースフルネスすなわち平和をという訴えをされておられたんですよ。
要は日本人としてどんな宗教観にもこだわりを持たない一人の茶人として世界に出て行ったときに、一杯の茶碗から平和を訴え、日本の心って伝えることができるんだ、と。 彼は、自分が一体何者なのか、今やっていることは本当に正しいのか、と足元を見ることを最後まで考えておられました。自分の哲学をちゃんと持つことが、今の時代には必要だと思います。

歴史や伝説に学ぶ、新時代のイノベーション
山田方谷、備中鍬、そして桃太郎。 すでにある物語に光を当て、今に接続する視点が語られる。
松田:岡山の陽明学者で藩政改革者でもあった山田方谷についても、学ぶところがあります。彼は8歳で四書五経を読んで、備中松山藩の財政を立て直した人です。彼の言う”理財”とは、最終的に利益を生み、民を救うこと。「武士が商いをするなんて」という当時の考えを超えて、備中鍬を発明した。それはすなわち、イノベーションです。
山地:岡山高梁市の地域の特産品を作って、当時の財政を救ったんですよね。
松田:ゼロから生むのではなく、元々あるものに光を当てて、今に合わせる。要するにイノベーションですよ。だから私は、歴史を掘り起こす事が必要だと思っているんですよ。文化的にも芸術的にもそうです。
つい先日は、和太鼓とオーケストラの融合を観てきたんですよ。こんな音があるんだっていう不思議な感覚がするほど、その和と洋の新しい融合があったんですよね。でもそれもゼロなのかっていうとそうじゃなくて、ベースはすでにすでにあるものに光をこう当てている訳です。伝統の中に新しい視点を差し込む、という。
山地:まさにイノベーションですね。山田方谷の考えにも通じる。すでにあるものに、違う角度の見方を差し込むことで新しくしていく。日本人の精神性として、いろんな宗教観だったりとか、いろんな文化も受け入れてきて、それを融合して、新しいものを作っていく流れがありますね。
松田:聖徳太子の「和をもって貴しと為す」。これは日本人だからできることだと思います。そういえば、桃太郎の話がありましてね。 犬猿雉に、先に吉備団子を渡している。あれは、現代でいうと要は企業への「先払い」なんですよ。下請け業者である犬猿雉にちゃんと先に吉備団子をあげている訳です。ただの伝説や英雄譚じゃなく、ビジネスとしても学びがあるはずです。
山地:吉備団子は先払いだった、というのは新しい見方ですね。歴史から学ぶことは、まだまだありそうです。
歴史から紐といて100年先を考えたとき、文化芸術は人間が必要として残してきたもの。歴史はもちろん、私は「音楽」にも、未来に続いていくヒントがあると感じています。最後に、松田さんが考える100年後の未来を聞かせてください。
松田:人間性の根底は変わらない方がいい。知識はAIが担っても、人間の心は違う。古典や哲学に立ち返り、人間とは何かを考え続ける。その議論の場を作れる人が必要だと思います。
山地:課題は終わらず、自分の哲学を持ち、常に考え続けることが必要ですね。
松田:永遠に考えていかなきゃいけないことは、きっとあると思います。

Profile
松田 久
昭和27年(1952)生まれ。昭和51年3月慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、三井銀行勤務を経て、昭和62年2月株式会社両備システムズに入社。 株式会社リオス代表取締役社長、株式会社両備システムズ代表取締役社長等を経て、平成23年6月より両備ホールディングス社長。平成31年3月より同社副会長。平成31年4月、岡山商工会議所会頭に就任。
山地 真美
情景描写ピアニスト・作曲家/”The SESSION 0” 総合プロデューサー。カンヌ国際映画祭作品、テレビCM、文化庁日本博事業など、国内外のプロジェクトを手がける。音楽を軸に、観光・教育・アート・ビジネスを横断し、社会や地域が持つ価値を100年後の日本の未来へつなぐ文化プロデュースを行う。株式会社ベネルート専務取締役。

